山形方人 Masahito Yamagata, PhD

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split HRP

split HRPによる細胞間での蛋白質同士の相互作用とシナプス結合の可視化

http://www.nature.com/nbt/journal/vaop/ncurrent/full/nbt.3563.html

A split horseradish peroxidase for the detection of intercellular protein–protein interactions and sensitive visualization of synapses

Nature Biotechnology (2016) May 30. doi: 10.1038/nbt.3563.

Martell JD1, Yamagata M2, Deerinck TJ3, Phan S3, Kwa CG1, Ellisman MH3,4,5, Sanes JR2, Ting AY1  (Corresponding authors: Joshua R Sanes, Alice Y Ting)

マサチューセッツ工科大学(MIT)化学教室のAlice Ting教授の研究室との共同研究。中心になって研究を行ったのは、MITの大学院生だったJeff Martellさん(現在は、カリフォルニア大学バークレー校でポスドク)。

 

細胞間の蛋白質同士の相互作用は、細胞増殖、免疫応答、感染、シナプス伝達など、様々な生物学的な過程での細胞同士のコミュニケーションに必須です。

こういう細胞外での蛋白質間の相互作用を可視化する方法として有名なのが、蛍光タンパク質GFPを2つに分割して、それを再構成させるsplit GFPという方法です。しかし、この方法は感度が不十分で、分割したGFP同士の相互作用もあるため、この方法で検出できる相互作用の特異性にも問題がありました。例えば、シナプス結合の観察のため、私達がこの方法を使って作ったマウス(GRASPマウス)では感度が不十分で、脳の小さなシナプスでは利用が非常に難しいのです。

今回、細胞外でも働く高感度な酵素として広く利用されてきたヘム結合糖タンパク質である西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ(HRP)を2つに分割するsplit HRP(分割HRP)という方法論を開発しました。HRPを2つのフラグメントに分割できるアミノ酸の箇所を見出し、更に分割した2つのフラグメントをDirected evolutionによるスクリーニングすることで、高活性を有する再構成に有利な新たな配列を創りだしました。この再構成を利用して観察できる蛋白質間の相互作用は、HRPの蛍光検出あるいはDAB等を利用することで電顕で観察できます。シナプス接着分子であるニューレキシンとニューロリギンにそれぞれのフラグメントを融合させることで、2つのニューロンシナプス結合を作った時のみに再構成できるようにしました。このシステムは、in vitroの神経細胞培養系さらにマウス視覚系で使用することができることを示しました。

split HRP法は、この他にも様々な細胞間の相互作用メカニズムの研究に有用であろうと予想されます。

 

1Department of Chemistry, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, Massachusetts, USA.

2Department of Molecular and Cellular Biology, Center for Brain Science, Harvard University, Cambridge, Massachusetts, USA.

3National Center for Microscopy and Imaging Research, Center for Research on Biological Systems, University of California at San Diego, La Jolla, San Diego, California, USA.

4Department of Neurosciences, University of California at San Diego, La Jolla, San Diego, California, USA.

5Salk Institute for Biological Studies, La Jolla, San Diego, California, USA.